【心の声に従ったら、あとから納得がいった。】
出発するには時間も遅く、絶対大変なことになるの分かっているのに出発。予想以上の激坂としんどさと向き合い、全てを使い果たしたけれど。星空の広がる真っ暗な夜道での出来事に、納得がいったというお話。
オフにしようといつもより少しだけゆっくり起きた朝。朝食を作って食べて、落ち着いたところでふとイメージが浮かんだ。
「今日も走ったらいいんじゃない?」
そっかーそうなのかー、じゃあ走るか。なんとなく心の声に従って見ることにした。これから走ったらどうなるのか分かっているのに・・・。
次の目的地は110km先のモンテベルデ自然保護区。山の上。行ったことあるカナダ友人が「あれ自転車で行くべきだよ。笑えるから。」と連絡をくれていた。70km地点で山道に入った。すごい激坂。これまでの旅で体験したことのないグネグネの激坂がずーっと続く。
舗装路はまだよかったんだけど、途中から砂利道になったら、もう僕のタイヤでは滑ってしまって走れない。自転車を押すことは普段は絶対しないんだけれど、今回ばかりは走りようがなく押しあげるように坂をのぼっていく。
あと30km弱を残して、完全に日が暮れて真っ暗に。ときどき通る車以外にはなんにもない。ただひたすら目の前に続く坂を見ながら自転車を押し上げていく。心が狭くならないように、なるべく呼吸を整えながら。
そうしていたら突然、仲間の顔が浮かんできた。リアカーを引いてアメリカ大陸を縦断している佐々木くんだ。彼はほんとにほんとにタフで100kg近いリアカーを引きながら、足かけ4年はやっていたかな、冬のカナダに、北極圏に、南米の標高5000mの峠にひたすら重い重いリアカーを引いて旅してきた。
「佐々木くんもこんな坂をいっぱい歩いてきたんやろうな。ほんで僕の自転車なんて比べものにならん重さのリアカーを引いて」
そんな思いが浮かんできた。そして星がいっぱいの夜空を見上げながら、僕はこう言った。
「佐々木くんが生きてるお母さんに会えますように」
実は昨日facebookで佐々木くんが引退宣言をした。旅のゴールとしていた南米最南端を目の先にしてだ。彼のお母さんが癌で大変な状況であるのが家族の連絡で分かったそうだ。
「僕はずっと親孝行できんかった。お母さんはいつも僕のためにたくさんのことをしてきてくれた。だから僕はお母さんのために帰国してそばにいることにする。」そう佐々木くんは書いていた。その彼に僕はメッセージを送っていたのだ。
「空に祈るね。佐々木くんが生きてお母さんに会えるように。」
こうして真っ暗な山道を歩くことで、僕は少しだけだけど佐々木くんの旅の思いを感じ、そして星空に願うことができた。
宿には夜の9時に着いた。今日は持てるものを使い切った。歩くのもしんどいくらいにヘトヘト。けど気持ちはすっごく満たされている。もしかしたら朝のあの心の声は僕がこうするためにあったんかもな。