【コーヒー豆探検記】
昨日の恐ろしい激坂山岳地帯を抜けて辿り着いたグアテマラの一大コーヒー
生産拠点コバン。コバン(小判?)という名前に相応しくおそらくここがグアテマラ
という国の台所事情を支える重要な拠点になっていることは間違いない。
(いまのスベってんでーという批判はいっさい受けつけない)
激坂地帯であれだけ山を覆うコーヒーの木々を見ていたので、町の中にも
あの日本のカフェなんかで見かける麻袋を積んだトラックが行き交っていたり、
市場に行けばコーヒーが売られているんだろうかなぁ、なんて思っていたら
びっくりするくらいのアッサリとした、コーヒーの香りのしない地方都市の拠点
となる町という感じだった。
少しリッチな感じのするショッピングモールのようなものにあるカフェは
コーヒーあります!という感じだが、それ以外の町を歩いて見えるものには
全くと言っていいほどコーヒーの産地であることを感じさせるものがない。
期待して向かった市場もおんなじだった。野菜。野菜。日用品。肉。古着。
ほんでまた出口のとこで野菜。みたいな感じで市場を抜けると、またさっき歩いた
ような町に戻ってしまった。あれまーあれまー。
どっかカフェ探して聞いてみようかなーとそこからしばらく歩くと、路地の左側に
黄土色の建物。よく見るとカフェって書いてある。おー、もしかしてここガイドブックに
小さく載ってたところだろうかなーなんてまだ開店してなさそうに吸い込まれるようにして
入ると、どうしたのーって感じでお店のお姉さんがこっちを見た。
「うーんとね。コーヒーの豆。
うん、いやコーヒー注文したいんとちごて豆。豆。ガリガリ。」
だんだんと困り顔になるお姉さん。が、おれは負けねー!
お姉さんは早々と諦めて僕をなぜか2階に連れて行く。
そこにいたボスっぽいきれいな服を着たお姉さん。
ビジネスウーマン顔負けの感じで、足を組み、携帯電話を片手にこちらに
「ちょっと待ってね」サインをした彼女は電話を切るとこう切り出した。
「Hello what do you want?」
わー!わー!英語やー!ありがとー!
「あんねーここコバンでしょ?コーヒー豆買いたいんやけど売ってなくて・・・
けど、ここも豆は売ってないんよねー・・・?」
「あなたの欲しいもの分かったわ。安心して。うちが使ってるコーヒー豆を持って来させるから。時間あるの?」と、テキパキとスタッフに電話の指示を与えるお姉さん。
かっこええ!かっこええやんか!お姉さん!
「ところであなたは旅行で来たの?」
「うん、実はねー自転車で旅してて・・・・」
とすっかり話が盛り上がってきた。お姉さんはアメリカにいたことがあって、英語はペラペラ。今は二人のお子さんがいるこのカフェのオーナーさんだった。いつの間にか、話題は子育てと教育の話に。やっぱり子どもたちには、最新のゲームよりも、たくさんの経験や体験に繋がるものを、みたいな話をしている時にええ話をしてくれた。
「あのね、グアテマラではね。歯が抜けると子どもは一晩その歯を枕に敷いて寝るの。自分の歯だからなかなか手放したくないのね。それで夜中にね、その歯とお金をね、交換するのよこの国では。そして子どもが朝にね、そのお金を見つけるの。」
「うちの4歳の子どももね、つい先日歯が抜けて朝お金を見つけたのね。それで私ね、
どうするのそれ?って聞いたの。そしたら彼はねフレッドとシェアするって言ったわ。」
「フレッドっていうのはね。私が関わっている貧しい家の子。彼の家はプラスチックの板だけでできているわ。縁があってね、彼をときどきうちに招いたり、一緒に出かけたりするんだけどね、彼はいつもお礼にね、家に薪を持って来てくれるの。」
「うちの子ね、そのフレッドとねお金を分けるんだって私に言ったのよ。ごく自然なこととして言ったわ。そのとき私ほんとに嬉しかった。うちの子がね、誇らしかった。いい子に育ってくれたって。」
彼女はずーっとずっと喋る。僕は相づちを打つ係だ。
けどね、こういうときにすこーしだけど、僕はこの国に住む人の心の中をすこし覗かせてもらっているような幸せな気持ちになる。だって、たったいま会った人だよ。しかもぼく外国人。彼女の人生にとってなんら関係のない人だ。
けど僕には会ったことないけど、彼女の息子くんのフワッとやわらかなイメージが浮かんだ。きっとたくさんの愛と、たくさんの思いに抱かれて育っているのだろう。もちろん彼女はこの国ではお金持ちだ。それでグアテマラのことを分かったようになろうなんて、さらさらない。
でも彼女が語ってくれた彼女の物語。そこにはたくさんのものが溶け込んでいる。
とっても美味しく焼きあがったクロワッサンに練りこまれたバターのように。それをサクッとかじったときに、口の中に広がるバターの香りのように、僕は彼女の家族やこの国のことを思った。
そうしてお話していたら豆が届き。彼女はニッコリと、うちが自信を持って出しているコーヒーだから美味しいわよ。と僕にコーヒーを手渡してくれた。お礼の言葉とともに、僕はあたたかな気持ちでカフェを後にした。
コーヒー豆を探そう。
こんな何気ないひとつの出来事から、生まれる物語。
だからこそ僕はこんな旅が好きだ。
効率が悪くても、しんどいことが多くても、それでもときどきこんなにもキラキラした
人の美しさのようなものを見せてもらえることがある。
旅っていいな。
だって出会う全てのひとに生きる人生があるんだもの。
そしてときどきだけれど、その世界にたったひとつずつしかないものに
触れることができるんだもの。