Father

【おとーさんの眼差し】

 

ちょっと長居してしまったトゥルムを出発する。

素敵な宿とオーナーに、生まれて間もないワンコ。オーナーはいつでも穏やかに多くのことを教えてくれた、ワンコはいつも僕を追いかけてきて、膝で抱いたらしばらく甘噛みをして、寝てしまう。膝の上にいのちを感じながら、起こさないようにぼんやり通りを眺めて過ごす。途中からはカンクンで一緒だった仲間も合流して、一緒に出かけて、みんなで料理をして、たくさん話して。毎日がすごく充実していた。ありがとう。

 

久しぶりのひとりは新鮮だ。いつもより少しペダルに力をこめながら、ただひたすら続く一本道を走る。右にも左にもジャングル。一年中暑いこの地域の木々は緑も濃く、グネグネした幹がその生命力を感じさせる。もう10月になろうかというのに、吹き出し流れる汗をぬぐいながら走った。

 

100km地点の町で宿探し。もちろんご褒美のコーラを飲んでから。メキシコのコーラはサトウキビを使っているのでうまい。ビンならなおさら。しっかり冷えたやつは最後までうまい。

小さな町だし、宿もそんなにかなという思いと裏腹に、予算の倍ぐらいの料金のホテルばかり・・・あれまーと思いながら45軒まわるもなかなか予算に見合ったところが見つからず。最後のホテルで450ペソ(3000円弱)と言われて、「どっか安いとこないかなぁ・・・」と泣きついたら、「ここまっすぐ北にいったところに確か一軒あるわ」とお姉さんが教えてくれた。よしそこにいってみようか。

 

町を外れた端っこのほうで見つけた宿。うん、安そう。中に入るとロザリオを首からかけたおじいさんが迎えてくれた。250ペソ。ちょっと予算オーバー。どうしようかなーと考えていたら「自転車で来たのか?」とおじいさんが外を覗く。そうだよーと自転車を見てもらいながら、これまでの旅のことを簡単に伝えていたら、おじいさん「ちょっと待ってなさい」と宿の奥に入っていった。しばらくすると今度はおばちゃんが出て来て、もう話が通っていたのか、「200でいいよ」と部屋に案内してくれた。こじんまりしているけど、居心地よさそうな部屋だ。うん、ここにしてみよう。

 

自転車を部屋に持ち込んで、おかあちゃんに「ごはん食べるとこあるかなー?」と聞いたら、こっち来なさいと呼ばれてついていく。着いた先は台所。あっためたほうがいい?そのまま?と出してもらったのはメキシコの郷土料理のポソレだ。大粒のトウモロコシがそのまま入ったお肉のスープ。こっちのトウモロコシは平たいまるパンのトルティーヤに使われるように、甘い水分の多いものではなくて、甘くなくてもちもちしたでんぷん質のやつ。スープに入っているトウモロコシも食べるとぐにゃっとした豆を食べている感覚。

 

美味しい!ありがとう!と言いながらこの嬉しい出来事を伝えようとiPhoneで動画を撮り始めた。ここのおかあちゃんにも登場してもらいたくて呼びかけると、ちょっとはにかんで手を振ってくれた。撮り終えて、これ日本のみんなに見せるねと言うと「あらー!おとーさーん!」と旦那さんを呼びに行った。なんて素敵なおばちゃんだろう。

 

ほんでまた帰って来たおとうちゃんが絵に描いたような、素敵なひげのおとうさん。僕の旅にびっくりしてくれて、よく来たなー、言うてくれて一緒に写真を撮ろうと言ってくれた。みんなで撮ったときの表情があまりに素敵で、夫婦の息がぴったりで、ちょっと待っててー!と僕は部屋に一眼レフを撮りに走った。

 

戻ってきて数枚撮らせてもらった。写真を見たおとーさんとおかあちゃんの表情がもうほんとに素敵でキラキラしていて写真を見返してちょっとウルっと来てしまいそうになった。すてきやなー、僕もそんな人と出会いたい。一緒に人生を過ごしたい。

 

宿を探しているときのちょっと不安な気持ちなんてすっかり忘れて、写真を見ながら、その感動を仲間に伝えながら、満たされた気持ちで夜を過ごした。